μT-Kernel仕様を読んでみた.

仕様書は閲覧可能なので,ざっと斜め読みしてみた.


各オブジェクトにdsnameなるデバッグ用の文字列を与えたり,静的なオブジェクト生成が無かったり,RAMがたっぷりある環境を想定しているっぽい.ARMだとPhilipsやADIは捨て.ルネサスだとR8Cは完全に捨て.NECならV850ESの上位ラインナップなら辛うじてOK.てな案配.

率直な感想

仕様は順当.μITRON3.0仕様に立ち戻り,μITRON4.0で特徴的な要素をいくつか潰せば,こういう仕様になる.
こんなにRAMがある環境ばかりではないとは思う.でもTOPPERSで言えばFI4の世界に相当するわけだ.
ROMもたっぷり消費するのだから,見合うRAMを期待する,というのは論理として判らなくもない.


純粋に技術者視点で見ると,順当.しかし,このタイミングでこの仕様を出す戦略の意図が良く判らない.
組込みBTRONで闘いに挑んでLinuxに負け,スケールを落として活路を見出そうというのだろうか.でもこのカーネル仕様のスケールだと,μCLinuxの一番小規模な部類とニアミスする.ファイルシステムTCP/IPスタックは欲しいとなれば,バッチリ重なりそうだ.

世間が心配するような(そして私が心配したような)TOPPERSとの競合はしそうにない.
確かに,μITRON4.0仕様のミューテックスを取り入れるなど,APIセットだけ見れば重なるのだけれども,静的APIの有無は,RAM使用量や検証可能性といった,組込みで一番気にするところに関して,決定的に効いてくる.
OSEKの仕様が(実際に使っている人が小数でも,教養的知識として)一般に知られるようになった結果,静的なカーネルコンフィギュレーションに違和感を感じる人は少なくなってきている.特に,組込み業界での当面のドル箱と目されている車載関係はそうだ.


まあ,シェアがフラグメントした組込みの世界.μT-Kernelにもシェアに食い込む余地が無いとは思わない.μITRON3.0を使っていて,そろそろ乗り換えを考えているという場合には,考え方が似通っているμT-Kernelのほうが,(仕様上の直系であるμITRON4.0系よりも)移行しやすい可能性はある.でも,そのパイの数は,T-Engineフォーラムの規模を考えると,必ずしも大きいとはいえない.


私の想像を超える壮大な計画の布石なのか,それとも,T-Kernel仕様に引っ張られた中途半端な仕様のままで甘んじるのか,しばらく静観が必要かもしれない.