起業に必要な,たった1つのこと.

コンサルタントって,当たり前のことを難しく装って10も20も挙げてくるのが仕事.だから,仕方ないといえば仕方ないのですけれど.
顔を売るとか営業力を磨くとかブレーンを作っておくとかいうのは,勤め人でもある一定レベル以上の人なら普通に心がけることであって,起業を意識してから慌てるようでは手遅れだと思うのですけれどね.違うのかな.


そこで、私がよく、起業を起こそうとする方に、「これだけは起業を起こす前に準備しておいた方がよいこと」としてアドバイスしました。それをちょっとご紹介。何事もしっかりした準備が不可欠です。


零細のソフト屋を7年続けてみた結果,起業に絶対に必要だと思ったのは,たった一つのことでした.ただでさえ超多忙な起業期.10も守るべきいいつけがあったら混乱の末に心労で倒れていただろうと思います.

  1. 3ヶ月先と6ヶ月先の預金通帳の残高を読める想像力.


家計簿と企業(事業主/法人のどちらも)の財務諸表の大きな違いに,売掛金/買掛金の存在があります.
まあ,クレジットカードは買掛金と似た性質を持つものなので*1,起業後すぐに腑に落ちるかもしれません.問題は,売掛金です.


(起業しようという人なら頭では判っているはずですが,整理のため,書きます.)
惚れた商品があり営業力があっても,先に売掛が発生し,その後現金が入ってきます.
現金化の期間は業種により様々ですが,現金で全てが済むという業種は極めて稀です.
流動資産(ストレートに言うと,現金)がなければ会社は干上がります.いわゆる黒字倒産というやつですね.
現金を如何に途切らせないかが,起業を頓挫させない全てです.


固定給の勤め人にとって,売掛と同種の入金はふつうありませんから,意識的に訓練しないと売掛に対する理解は身につきません.

教科書的に売掛を理解していたとしても,現実に目の前の通帳の残高がガンガン目減りして行く様を見ると,最初は焦ります.ムチャクチャ焦ります.売掛にはタイムラグがあるため,現在の残高を見ていても何の対策にもなりません.しかし,焦るわけです.頭でだけ理解して,腑に落ちていないから.
その焦りは,本業を停滞させます.落ち着いて業績を伸ばす為には,売掛が回収された後の残高を想像することと,その間に現金がショートしないという確証を得ることがとても大事です.


数ヶ月後の預金通帳の残高を考えていれば,何をしなければいけないのかは自ずと見えてきます.
この辺りから先にまで考えが及べば,10くらいの指針は出てくるかもしれません.


残高がたりないなら,可及的速やかに営業をかけなければなりません.並行して抑制できる変動費を探す必要があるかもしれません.
残高が決定的に足りないなら,借入の手筈を整えなければなりません.借入も,なんだかんだで手配から数ヶ月はかかります.
場合によっては,店を畳む決断をしなければならないかもしれません.店を畳むにもお金は要ります.


残高に余裕があるなら,何に使うかを考えなければなりません.

  • 借入の繰り上げ返済する
  • 余剰金をレバレッジに,さらに借入する
  • 商品に磨きをかける
  • 間接部門(ブレーン)に投下して,直接部門の生産性を上げる
  • ちょっとした福利厚生で従業員の英気を養う
  • などなど*2

結局,企業活動というものが資本主義に基づいて行われる以上,手持ちの現金を如何に減らさず,あわよくば増やせるかというのが,起業家に課せられた宿命ということになります.
こういう言い方は,夢も希望も無いように聞こえるかもしれません.でもまあ潰れてしまっては,夢も希望も叶わない訳です.


なんて書きながら,いまだに売上予測を間違えて,顔を青くしたり白くしたりしながらどうにか潰れずにやっている程度のワタクシだったりします.

*1:簿記的に細かいことを言うと違う(未払金?)ようですが

*2:ちなみに,貯金する,という選択肢が頭に浮かんだ人は,起業は向かないかもしれません.市中の借入金利を超えるリターンを得られない経営では,戦後日本の伝統的な資金調達はできません.直接資本を調達するとしても,営業的/財務的に成長しない企業に対して,出資する人がいるとは考えづらいですね.