日本のセミコン屋さんの弱いところ

財務的にとか戦略的にとかいうハイブローな経営課題は,異分野なので知らない.
ソフトウェアエンジニアから見て弱いところ.それは,情報公開の弱さに尽きる.

例えば,VR5701.NECエレクトロニクスのサイトにはたくさんの関連プレスリリースがあるが,マニュアルの類をwww.necel.comからはダウンロードすることができない.LinuxやT-Kernelのオブラートで包んで使えという態度だと仮定しても,ここまで情報非提供だと憂鬱になってくる.ドライバ一つ作るのにも難儀する.宇宙機用としてニッチに売っているHIRECのHR5000のほうが,同じMIPSでも,変に独自拡張していない分だけ得られる情報が多い*1

別にNECエレさんだけが不親切なわけでもないのが,憂鬱気分を加速する.

ルネサスさんのR32C,FMLさんのFR81,共に主力になりそうな石だけれども,R32Cは今年に入るまで真っ当な方法でwebサイトから情報を得ることができなかった.FR81はwebサイトではロードマップにも反映されていない.SuperHのオンチップデバッガ関連の情報はNDAをカッチリ結ばないと貰えない.M32Rもそうだ.V850のデバッグインタフェースも.
国産アーキテクチャに関して言わせてもらえれば,たぶん連載が可能なくらいに憂鬱が転がっている.


…とだけ書くと,情報を貰えない零細の愚痴か?.という反応が来そうだけれども,ご心配無く.零細なのは確かだけれど,入手を行うためのルートは確保できている.だから,個人的には困っていない.日本国内の仲間内に限って言えば,資料の入手性は高い.近視眼的には文句無し.
ただし,中長期的には,困る.開発リソースを割いたチップは,今後も繁栄して頂かないとこちらとしてはビジネスにならない.
IntelMIPSもARM陣営の各社もITもADIも,プロセッサのマニュアルが容易にダウンロードでき,サードパーティツールの作成も(相応の技術力があれば)容易.日本人エンジニアにとって,日本の半導体ベンダへのリーチは短いけれども,日本人の開発者なんて全世界における割合からすればたかが知れている.


2年程まえ,ホビーロボットで知名度のある某社と話をしていたときに,「これからはARMで行くよ.SHは使っていて全然面白くない」と言っていた.真意を深く聞き出したわけではないのだけれども,インストラクションセットや実行効率が面白い/面白くないの判断基準ではないだろう.


負けてもらっては困る.私が.

*1:JAXA/HIRECの情報公開の弱さはセミコン屋さんの比ではないのだけれど,コアに関してはMIPSが適切な情報提供を行っているから.