真似の仕方次第ではトドメとなる.


「自動車のような産業構造に再編すべきだ」。NTTデータの山下徹社長はインドや中国など海外ソフト会社が日本市場に本格進出してくる前に、ソフト産業の構造改革を実行する必要性を説く。日本のソフト産業が崩壊の危機にあるからだ。

 そのヒントを自動車産業に求めた。トヨタ自動車日産自動車など数社の自動車メーカーがエンジンなどコア製品を自ら設計、開発するものの、タイヤやマフラーなど多くの部品を専門部品メーカーから調達し、最終製品に組み立てる。一方、部品メーカーは国内外の自動車メーカーに部品を売り込み、グローバル展開を図る。

発言の引用ではないので,山下社長の真意が汲み取られているかどうかは解らない.しかし,もしこの文面と同一の考えだとすれば,不勉強な経営者を持つNTTデータは,私の息子が就労年齢を迎えるより遥かに早く,消えるだろう.


自動車は,モジュラリティが高くしようという動きがあるとはいえ,まだまだインテグラル製品の最右翼に近い位置にある.
数百のECUが入ってそのうちの少なからずがネットワークで相互接続されているシステムを,設計としてはほぼ一品もので作り上げる.それが近年の自動車である.その構図は,箱を買ってきてWintelLinux入れてフレームワーク入れてLANで繋ぐ,というよりは,かつての銀行の基幹システムのほうが近い.

そして,自動車メーカは…特に日本のは…,実は社内でも試作くらいは作れる実力を持っている.その実力を持たずして,外部委託先のグループ会社にkaizenを要求することなどできるはずもない.どこかの国の丸投げSIerはえらい違いだ.


ちなみに,日本でも,移動用車両でモジュラリティが高い工業製品もある.自転車だ.
巷に溢れている自転車がどれだけ儲かる製品なのか,また,その部品産業が日本国内でどういうことになったか,考えてみると良い.
擦り合わせ開発がなされた一部の自転車が,それらの乱造品と比べてどれだけのプレミアムを得ているかも,併せて考えてみると良い*1


こういった,カーエレ満載の日本の自動車の強さの源泉に,前述の山下社長が(お会いしたことは無いが)気づいていないとは考えづらいのだが.
発言の真偽はさておき,このような観察の甘い記事が,日本のSIerをじわりじわりと沈めて行くのかもしれない.

で,上記引用記事に対する批判的な記事を見つけたので,そちらにも一言書いておこう.


パッケージベンダが自動車産業を参考にするのは、100歩譲るとありかもしれない。消費者に受け入れられるだろうという予想にもとづきプロダクトを開発していくモデルだから。

でも、やっぱないな。車は、多少の違いがあっても、どれも基本的な構造は同じ。パッケージは、いろんなものがあるからね。

それに対して、SIは一品ものだもの。規格(パッケージ)通りじゃないものを作るのがSIです。

古くて新しい話題として,ソフトウェアと製造業の違いというものがある.主に設計と量産で必要されるリソースの違いと,それに伴う品質管理手法の違いという辺りが争点に成りがちなのだけれども.「ソフトウェア屋の製造工程とは,CD-ROMのプレス程度だ,とか.」
確かに,違いを無視するのは良くない.でも,"違う"と意識しすぎるのもよくない.


自動車だと、同じマフラーを作り続けることができるけど、システム開発の場合は、同じマフラーを作ることは意味がない。同じプログラムを作り続ける意味がないからね。

自動車はモジュラリティがあるという誤解がここにもある.設計段階では,自動車とSIには似ているかもしれないと指摘しておこう.近所のオートバックスにでも行けば,同じメーカでも車種によりマフラーもサスペンションも形状が違うことは実感できるだろう.タイヤにはサイズの規格はあるが,ちょっとマニアな車種なら,タイヤさえもコンパウンドやパターンは専用設計.


自動車は量産しないと設計コストを回収できないが,SIは納品時に設計コストを回収できるという程度の違いはある.でもそれは経営や営業の話でしかない(かもしれない).


おそらく,SIerは,自動車業界に学べる.ただし,深く学ばないとトドメになる.これはどんなものを学ぶときでも一緒だけれども.

*1:軽自動車が買えるような高級自転車を指しているわけではない.例えば近年のヒットであった"ふらっかーず"シリーズなどは一考に値する