黒船信仰とあまりかわらんなぁ

これだけは,本書に限らない,世間一般に対しても適用可能な感想のような気がするので,元のエントリから分離しました.

現場主義の人材育成法 (ちくま新書 (538))

現場主義の人材育成法 (ちくま新書 (538))


本書は章により,視点を微妙に替えています.だから,本書を貫くとまでは言えないのですが,教育に関しては,黒船信仰の匂いを強く感じます.

著者は「覇気がないから中国にでも行って刺激受けてこい」というようなことを言う訳です.しかし,これって,形を変えているだけで「インドの数学はすごい!」「iPhoneサイコー,ガラパゴス涙目www」「いっぺんシリコンバレーで揉まれてこい.話はそれからだ」的なものと同じ匂いがするわけです.


私は鎖国国粋主義の立場は取りません.20桁までの九九暗記はすごいと思うし,iPhoneの曲線の美しさに嫉妬するし.
至近10年の間に自分の身にふりかかったことを振り返れば,サニーベールの青空は印象的です.「こんなに住み易い環境でクリエイティブになれないとしたら,そいつはエンジニアとしてはどうしようもないクズだ」と思いましたよ.CESでネイティブ英語の質問に何一つ答えられなかった屈辱も忘れません.北京の街中で英語全然通じないじゃんマスコミの嘘つき*1といった驚きも,台湾のベンチャーが箱モノ的に優遇されていて羨ましいと思ったことも,ぜんぶぜんぶ自分の糧になったとは思うのですが.

でもその経験をドライブしたのは日本がダメだと思ったわけでも言われたからでもなくて生まれ育った街に対する素朴な帰巣本能だったように自らを思うのですよ.自分が信じる技術や思想を自分の住む街で形にしようと思った結果として,国境が無意味になってしまっただけで.
結局,私は…おそらく本書を読む大多数も…日本人だし,そのバックグラウンドは変えられないわけで,


武者修行の重要性を否定はしませんが,日本に刺激が無いから行ってこい,というのでは,刺激のアウトソーシングでしかない.ほんとにそんな育成法でいいの?
コスト安いからアウトソーシングだオフショアだと安直に流れて壊滅的になった日本の団塊世代と同じ危うさを,手法に感じるのでした.なんとなく,ね.

*1:この点,本書も嘘つきだと思う