多重下請け撲滅がSIerを本当に救うのか?

調べものをしていて,ひが氏のブログに当たる.


多重下請け構造こそ、SI業界の最大の問題点なわけだから、「ゼネコン型SIビジネスが崩壊する」のは、悪い話じゃない。

相変わらず温室なエントリとコメントだなぁと思い(その理由は後述)ながら,トラバ見ていたら,disり屋さんらしきエントリに辿り着いた.


何故SI業界から「多重下請け構造」がなくならないかといえば、自分たちで営業をしないからである。勤め先でそこそこ腕に自信のつけた技術者が独立して小規模な会社を作り、人脈を頼って仕事を取るから数ばっか増えて「多重下請け構造」が出来上がるだけの話である。機械をいじくることだけが得意で人間の相手が出来ないから、最終ユーザーから直接仕事を取ってくる苦労をネグっているのであり、同業者から貰った仕事をこなすだけだから独自の製品を作って世に問うことも出来ないのである。

まあ,そういうことなんだよね.多重下請けの構造としては.


で,その多重下請け構造なのだけれど,無くなればSI業界は救われるのかね? そもそも提案したりdisったりするだけの価値のあるアイデアですかね?
私は自らの経験から,ちょっと疑問に思うのよ.

私が勤めている会社は,営業が得意な共同設立者とは3年目くらいで袂を分かって,以降は付かず離れず.ポジショニングを決めたりとか知名度を上げるといった(広義の)マーコムはしてきたと思うのだけれど,たぶんセールスはしていない.
営業という意味では完全に落第点だと思うのだけれど,設立直後くらいからずっと多重下請け構造の外にいる*1
下請けを全くしないわけではないけれど,3次請けならお断り.2次請けのときは,エンドユーザの財務が安定していることは必須だし*2し,契約上のメリットを感じるとかよほど恩義を感じている人からの頼みだとかでなければ請けない.
そういう会社がとりあえず9期くらいは潰れないという事実から導かれるのは,多重下請け構造の裏に営業をサボっている事実があるとは思うけれど,営業をサポっても多重下請け構造から抜けることは,たぶんできるということ.disりエントリは脇が甘い.まあいいけど.
他方,多重下請け構造から容易に出られる現実があるにも関わらず,「最大の問題点なわけだから」と言うだけで動かないのは,私に言わせれば「温室」ということになる.


多重下請け構造から決別すると,社内に留保できる知財が増える.これはたぶんホント.disりエントリの言う通り.
プロプライエタリの形で蓄えることもできるし,オープンソースに還元することも割と簡単にできる.中抜く連中が思っているよりも,最上流は知財を独占しようとは思っていないケースは案外ある*3.中抜く連中は知財を扱うインセンティブがないから全部吸い取って上納しようとしているだけ.
知財があれば,ちょっとした製品は出せる.一部で流行りの"小さなISV"を試す程度のことは十分可能になる.


そんなこんなで,SIerさんが悲願としていらっしゃる(?)多重下請け構造から無縁でもうすぐ9期になる会社の財務を追う日々なのだけれども.SIerさんの苦境を横目に,順風満帆な経営をしているか.…まあ潰れてはいないけれど,楽観もできないというのが正直なところ.
会社には好不調のリズムがあるのでスナップショットで語るのは危険だけれど,多重下請け構造の打倒がラスボスとはちょっと思えない.


先日,組込みLinuxで知られたトライピークスさんが破産*4になったのが象徴的ではないだろうか.自社技術もあり,多重下請けとは関係無さげだったよね,あの会社は.そんな会社より,多重下請けの末端のほうが長生きできるかもしれない,現実.


多重下請け構造の是正については,夢や肯定をもって反応している人が多いように見受けられるのだけれど,是正そのものは,声高らかに提案する価値も荒げてdisる価値もない可能性が高いと思うよ.その先を語るなら意義もあるかもしれないけれどなぁ.

多重下請け云々で足踏みしている議論が,SI業界の行き詰まりを表していると読めなくも無いけれど,などと書くと意地悪すぎか.

*1:細かいことを言うと,業容はSIerさんお得意のITではなくETがメインだけれど,ETだって多重下請けのシステムであることは同じ.

*2:具体的には1部上場相当か,独立行政法人相当

*3:私が勤めている会社には「オープンソース割引」という見積もり項目があって,案外これを選択する顧客は多い((うちの場合は,問い合わせを請ける段階でオープンソースを使う気になっている顧客が多いってこともあるだろうけれど.

*4:ちなみに本件,組込みの中の人も業界メディアも全く騒がないのが不思議を通り越して不気味.