会社の隠れ負債が人材の流動化を妨げているのでは,など思う.

整理解雇30日前予告

従業員を一人,整理解雇することとなりました.ちょいと業績悪い(== 後ろ向きなリストラ),業務内容を整理整頓して経営や財務の見通しを良くしたい(== 前向きなリストラ),両方の事情がありました.
技術の指向性,ウエットウェアな面,などなど色々とすれ違いがあったとはいえ,清濁併せ呑んでかつ成長路線に乗せるのが経営者ってものでしょうし,(少なくとも道徳的/法的には)労働の機会を確保するのが雇用主の責務ですから,その点の至らなさは今後の課題と思ったりしています.

会社の隠れ負債が人材の流動化を妨げているのでは,など思う.

てな具合で,解雇に必要な資料を揃えたり,タイムスケジュールを立てたりと,心が折れそうなくらい後ろ向きな雑務を,総務のN嬢とやっていたところで,「あわせてよみたい」に下記ブログが出てきた.人気ブログではあるけれど,私の日記と「あわせてよみたい」になるのは珍しいことでは無かろうか.シンクロニシティ?


リバタリアンの一部は整理解雇の4要件やら解雇権濫用法理が日本の雇用を歪めてきたのだと主張するが、整理解雇の4要件を見直す判決は出ているし、解雇権濫用法理で実際にどれだけホワイトカラー上層の雇用が守られているかとううと疑問が残る。この10年近くのリストラで民間企業の多くはそこまで余剰人員を抱えなくなったし、労基法の介入を受ける労働条件の悪いセグメントは以前から雇用の流動性が高かった。ホワイトカラー上層でも外資やらIT業界はそれなりに流動性がある。

何回か転職し,被雇用者時代に管理系として人の首も切ったことがあるので,薄々感じていたことがある.


この手の流動性と解雇に関する話は,いつだって整理解雇の4要件だの解雇権濫用だのいう話題に収束してしまう.まあ,それはそれで大事なことだろう.


でも,私には,うわべの話に聞こえる.流動性を妨げているのは,会社が従業員に対して隠れ負債を持っていることなのだろうとほぼ確信している.隠れ負債を直接作り出しているのは雇用主だが,その仕組みを提供しているのは,おそらく法やその運用だろう.



解雇時には,有給は買い取る必要がない.また,退職金は,規定がなければ支払う必要はない.ただ,会社を立ち上げるとき,就業規則や賃金規定をキッチリ決める会社は,それほど多くない*1.本やwebサイトにあるものをそのまま書き写すと,会社の実態に合わない規定も多いはず.


加えて,訴えられたらほぼ言い逃れ不可能なのが,代休.うちは代休の取得に対して一切難色を示してこなかったのが(会社にとってみれば)不幸中の幸い*2だったのだが,日本の大多数の会社は,ブラックと呼ばれる会社ではなくても,30日以上の代休が未消化のまま残っているのは珍しくないだろう.業界によっては常態化しているとの指摘もある
普通(整理)解雇は30日前に通知する必要があるが,30日以上代休があれば,実質退職金を払うのと同じことになる.
中小零細企業で,引き当ててもいないキャッシュアウトが数百万単位で出てくれば,金融機関も黙ってはいないだろう.


労働条件の悪いセグメントで雇用の流動性が高かったのは,そういうセグメントで働く人の多くが法に対するリテラシが低く,雇用主の有利なようにことを進めても問題が顕在化しなかったことにあるのではないかという気がする.それなりに労働条件がよいとされるセグメントでさえ,きちんと理解しているかどうか,疑問だ*3


しかし,我らITエンジニアの尽力で(?)時代は変わった.どんなセグメントで働いている人もケータイからGoogle/Yahoo!一発で,自分の解雇が不当かどうかは判る.人力検索で具体的に相談すれば,具体的な回答も得られる.
サラ金過払い問題のおかげで,弁護士も以前ほど縁遠い存在でもなくなった.

そんなこんなで,社員に対して退職金や未消化代休という隠れ負債を持っている会社は,どんなに業績が悪くても…というか,業績が悪ければ悪いほど…従業員を切れない.隠れ負債が顕在化した場合,場合によってはぼろぼろな財務への最後の一撃になってしまうから.


恣意的に人材の流動性を高めるべきかどうかは,よくわからない.
けれど,現行の労働関係諸法やその運用が必要以上に複雑すぎて,そのことが,かつては労働条件の悪いセグメントでの流動化を担保し*4,今になってみれば,必要以上に人材の流動性を抑え込んでしまっている*5,ってことはほぼ間違いないのではないかなぁ.とかとか.


その複雑さにつけ込んで甘い汁を吸っていた,もしくは被雇用者と同様に制度を法や運用を理解できなかった,雇用主にも相応の責任はあるだろうとは思うけれども.


以上,この世の中の深く沈んだ淀みの中には在るけれども誰もが避けたがる話.

書いてみて思った.

「整理解雇の4要件だの解雇権濫用だの」という,うわべの話に収束させたほうが,綺麗だよね.美しいものはステキだ.うん.

*1:私が勤める会社も例外ではない.数年前に見直して,大改訂を行った.

*2:その分,業績に悪い影響を与えたとも思うので±0.

*3:たとえば「代休と有給が残っているとき,解雇予告後に代休を優先消化させることで雇用主の支払いが低く抑えられる」と聞いて,そのからくりを即答できる人は多くないだろう.そもそも「休日」と「休暇」の違いさえ大多数の人は考えたことがないのではなかろうか.

*4:法の精神に反し,労働者を保護できない

*5:企業の経営の足かせ