ランチェスター戦略

日本以外ではあまり知られていないらしい? まあガラパゴスの何が悪い,って話もあるので,世界標準か否かは気にしない.
正直,あまり興味なかったのだけれども,マンガ版が出たのを知って,ちゃらっと読んでみるかな,と.

ランチェスター戦略 (ビジネスCOMIC)

ランチェスター戦略 (ビジネスCOMIC)

以下,この本に関する読書感想文.

ランチェスターの法則自身は,割と単純.説明はWikipedia辺りに譲る.
それを梃にして種々のマーケティング手法を融合したのがランチェスター戦略ってところ,か.
ただ,数理モデルに立脚している割に,どことなく"怪しい感"が漂う.たぶん最初のころはきちんとしていた理論だったのに,アレコレとマーケの連中が弄り倒してワケ判らん理論になってしまったのかなーという気がしなくも無い.

例えば,射程距離理論という概念.紹介した書籍(P.187)によると

敵の3倍の兵力数で闘えば,まず間違いなく勝てるという3:1の法則を

までは,ランチェスターの法則そのものなのであるが,

シェア理論に応用し,敵味方のシェア差がどこまで開けば競争戦略上,逆転が困難になるのかを示す.

…? 兵力(経営資源)の問題が,そのままシェアに持って行ける…のか? という疑問がアタマを占拠する.まあ,結果としてそれっぽい数字にはなるのだけれど,数字遊び感が否めない.

ランチェスターの法則で説明できない理論の山

射程距離理論は,まだランチェスターの法則との関連があるから,無理に納得できなくもない.全くもって判らんのが「グーパーチョキ理論」なるもの.製品にはライフサイクルがあるよ,という,誰でも知っているお話を指しているのだけれど,これをランチェスターの法則では全く説明できそうにない.

差別化戦略も,説明できそうに無い.差別化戦略で得た結果を,ランチェスターの法則でのパラメータに使うということは有り得るのかもしれない.マーケの4Pをさらに細分化して8分野というのが筆者の提唱のようだけれど,そんなに変数増やして真っ当な解が出せるのかしら.

まだ突っ込みどころはあるけれど,まあ,これくらいにしておく.

ランチェスターの法則ランチェスター戦略を否定する可能性.

ランチェスター戦略は,強者と弱者をなぜか区別したがる.私も,企業規模によって戦略が変わることは否定しない.でなければ小さなISVの経営者が,大きなベンダの苦境を助けられるはずはないのだ,というエントリは書かない.

それはそれとして,ランチェスターの法則は,興味深い仮説を我々に提示している.このことにも気づくべきだろうと思う.ランチェスターの第2法則は,

戦闘力 = 武器効率 * (兵力数)^2

で示されるらしい.ランチェスター戦略は,この法則を「強者の戦略」と呼ぶらしく(P.186).

兵力数が2乗になると弱者を圧倒できるので総合力を活かした集団戦・組織戦で戦う.「総合主義」という.武器効率を同等にすれば兵力数で勝敗が決することから弱者の差別化を封じ込める(後略)

ということになっているらしい.
だがしかし,この法則,武器効率は相手と自分との相対比で決定されるものである.仮に武器効率がとんでもなく高い場合,兵力数を凌駕して勝敗がひっくりかえる可能性がある.

テレビの世界なら特攻野郎Aチームとか大抵のヒーローものはそういう世界観でできている.現実社会でも,初期のDELLAmazon楽天,今でもGoogleの徹底的な自動化による広告収益モデルなんていうのは,そういう世界観でないと説明がつかないだろう.

そもそも現実の経済は

ランチェスター戦略は,なぜかNo1であることについて異様な執念を燃やすようなのだけれども,現実の経済は,絶対優位ではなく比較優位で回っているというほうが正しそうだ.
独占状態になると,小さな会社が破壊的イノベーションを仕掛けてきて足下をすくわれるというのも,そこかしこで観測されているっぽい.
さらにいうと,ライフサイクルの終盤で敵になるのは,実は競合というよりも,新市場や顧客のニーズ変化であることが多いのではないかという気もする.パイそのものが顧客から飽きられたとき,パイを独占することに何の意味があるのだろうか.

パイの独占手法であるランチェスター戦略は,高度成長期だった昭和40年代の日本では役に立っただろう.しかし,もうそういう時代は過ぎ去ったのではないの? というのが読書感想文.
まあ,適用条件を厳しく絞り,コモディティ化しまくった業界に適用するとかいうの手では役に立つのかもしれない.そうでないテクノロジー系の業界に身を置いている場合でも,思考実験のネタとして,読む価値はあると思う.